置換群の部分群のk重推移性
本稿では、対称群の部分群における多重推移性 (multiple transitivity) の判定条件について、論理的ギャップを排除した完全な証明とともに解説します。
第1章 特定の長さを持つ巡回置換で生成された置換群の部分群の $k$ 重推移性の判定
基本概念の定義 1.1 (対称群と推移性)
有限集合 $\Omega = \{1, 2, \dots, n\}$ 上のすべての全単射からなる群を $n$ 次対称群 (symmetric group) と呼び、$S_n$ と表す。$S_n$ の部分群 $G \subset S_n$ について、以下の概念を定義する。
- $k$ 重推移的 ( $k$-transitive): 正の整数 $k$ ( $1 \le k \le n$ )に対して、$G$ が $\Omega$ 上で $k$ 重推移的であるとは、$\Omega$ から選んだ互いに異なる $k$ 個の要素からなる任意の順序組 $(x_1, \dots, x_k)$ と $(y_1, \dots, y_k)$ に対し、ある $g \in G$ が存在して、すべての $1 \le i \le k$ について $g(x_i) = y_i$ を満たすことをいう。
- 巡回置換 (cyclic permutation): 相異なる $m$ 個の要素 $a_1, a_2, \dots, a_m \in \Omega$ に対し、$a_1 \mapsto a_2 \mapsto \dots \mapsto a_m \mapsto a_1$ と巡回させ、それ以外の要素を固定する置換を長さ $m$ の巡回置換(または $m$ 巡回置換)と呼び、$(a_1 \; a_2 \; \dots \; a_m)$ と表記する。
- 点固定部分群 (pointwise stabilizer): 部分集合 $X \subset \Omega$ に対し、$X$ のすべての要素を個別に固定する $G$ の要素全体のなす部分群を $G_X = \{g \in G \mid \text{任意の } x \in X \text{ に対して } g(x) = x\}$ と定義する。
理解を助ける具体例 1.2
$n = 4$ とし、$\Omega = \{1, 2, 3, 4\}$ に作用する 4 次対称群 $S_4$ の部分群 $G \subset S_4$ を考える。
仮に $G$ が長さ 4 の巡回置換 $c_4 = (1 \; 2 \; 3 \; 4)$ と長さ 3 の巡回置換 $c_3 = (1 \; 2 \; 3)$ を含んでいるとする。
$c_4$ は全要素上を巡回するため、$G$ は 1 重推移的である。また $c_3$ は要素 4 を固定するため、点固定部分群 $G_{\{4\}}$ の要素である。$c_3$ は残りの集合 $\{1, 2, 3\}$ 上で推移的に作用する。この構造により、固定された要素の外側で自由な移動が可能となり、$G$ が 2 重推移的となることが直観的 (intuitive) に理解できる。
定理 1.3
任意の正の整数 $n, k$ ( $1 \le k \le n$ )に対して、$n$ 次対称群の部分群 $G \subset S_n$ が、長さ $n, n-1, n-2, \dots, n-(k-1)$ の巡回置換をそれぞれ少なくとも1つ含むならば、$G$ は $k$ 重推移的である。
証明:
$k$ に関する数学的帰納法を用いて、$1 \le m \le k$ を満たす任意の整数 $m$ に対して $G$ が $m$ 重推移的であることを示す。全域集合を $\Omega = \{1, 2, \dots, n\}$ とする。
【第1段: $m=1$ の場合】
仮定より、$G$ は長さ $n$ の巡回置換 $c_n$ を含む。$c_n$ は $\Omega$ のすべての要素を1つの巡回軌道としてつなぐため、$\Omega$ の任意の2要素 $x, y$ に対して、ある整数 $r \ge 0$ が存在して $(c_n)^r(x) = y$ となる。
$(c_n)^r \in G$ であるため、$G$ は $\Omega$ 上で推移的( $1$ 重推移的)である。したがって $m=1$ のとき主張は成り立つ。
【第2段: $m-1$ から $m$ への帰納ステップ】
ある整数 $m$ ( $2 \le m \le k$ )について、$G$ が $m-1$ 重推移的であると仮定する。このとき $G$ が $m$ 重推移的であることを示す。
仮定より、$G$ は長さ $n-m+1$ の巡回置換 $c_{n-m+1}$ を含む。
この巡回置換 $c_{n-m+1}$ は $\Omega$ のうちちょうど $n-m+1$ 個の要素を非自明に巡回させ、残りの $n - (n-m+1) = m-1$ 個の要素を固定する。
この固定される $m-1$ 個の要素からなる集合を $X = \{x_1, x_2, \dots, x_{m-1}\} \subset \Omega$ とする。
$X$ の点固定部分群を $G_X = \{g \in G \mid \text{任意の } 1 \le i \le m-1 \text{ について } g(x_i) = x_i\}$ とおく。
巡回置換の定義から明らかに $c_{n-m+1} \in G_X$ である。
$c_{n-m+1}$ は差集合 $\Omega \smallsetminus X$ のすべての元(計 $n-m+1$ 個)を単一のサイクルで巡回させるため、$G_X$ は集合 $\Omega \smallsetminus X$ 上で推移的に作用する。
ここで、$\Omega$ から互いに異なる $m$ 個の要素を選んだ任意の組を $(y_1, \dots, y_m)$ および $(z_1, \dots, z_m)$ とする。
帰納法の仮定より $G$ は $m-1$ 重推移的であるため、組 $(y_1, \dots, y_{m-1})$ を組 $(x_1, \dots, x_{m-1})$ に移す要素 $g \in G$ と、組 $(x_1, \dots, x_{m-1})$ を組 $(z_1, \dots, z_{m-1})$ に移す要素 $h \in G$ が存在する。すなわち、すべての $1 \le i \le m-1$ について以下が成り立つ。
$$\begin{aligned} g(y_i) &= x_i \\ h(x_i) &= z_i \end{aligned}$$
ここで、$y'_m = g(y_m)$ および $z'_m = h^{-1}(z_m)$ と定義する。
$g$ と $h$ は全単射であり、元の組の要素は互いに異なるため、$y'_m \notin \{x_1, \dots, x_{m-1}\} = X$ であり、同様に $z'_m \notin X$ である。
すなわち、$y'_m, z'_m \in \Omega \smallsetminus X$ である。
先述の通り $G_X$ は $\Omega \smallsetminus X$ 上で推移的であるため、$y'_m$ を $z'_m$ に移す要素 $f \in G_X$ が存在する。すなわち $f(y'_m) = z'_m$ であり、かつすべての $1 \le i \le m-1$ について $f(x_i) = x_i$ である。
以上の $g, f, h \in G$ を用いて、新たな置換 $w = h \circ f \circ g \in G$ を構成する。
この $w$ の作用を各 $i$ ( $1 \le i \le m$ )について確認する。
$1 \le i \le m-1$ のとき:
$$w(y_i) = h(f(g(y_i))) = h(f(x_i)) = h(x_i) = z_i$$
$i = m$ のとき:
$$w(y_m) = h(f(g(y_m))) = h(f(y'_m)) = h(z'_m) = z_m$$
したがって、すべての $1 \le i \le m$ について $w(y_i) = z_i$ が成り立つ。
$(y_1, \dots, y_m)$ と $(z_1, \dots, z_m)$ は任意であったため、$G$ は $m$ 重推移的である。
【結論】
数学的帰納法により、$G$ は $k$ 重推移的であることが証明された。$\blacksquare$
第2章 点固定部分群の補集合への推移性による判定定理
定理 2.1
任意の正の整数 $n, k$ ( $2 \le k \le n$ )に対して、$n$ 次対称群の部分群 $H \subset S_n$ が以下の2つの条件を満たすとする。
- $H$ は $(k-1)$ 重推移的である。
- ある $k-1$ 個の要素からなる部分集合 $A \subset \{1, 2, \dots, n\}$ が存在し、その点固定部分群 $H_A$ が補集合 $\{1, 2, \dots, n\} \smallsetminus A$ 上に推移的に作用する。
このとき、$H$ は $k$ 重推移的である。
証明:
全域集合を $\Omega = \{1, 2, \dots, n\}$ とし、仮定 2 に存在する $k-1$ 個の要素からなる部分集合を $A = \{a_1, a_2, \dots, a_{k-1}\}$ とする。
$H$ が $k$ 重推移的であることを示すためには、$\Omega$ の互いに異なる $k$ 個の要素からなる任意の2つの組 $(x_1, x_2, \dots, x_k)$ と $(y_1, y_2, \dots, y_k)$ に対して、ある $h \in H$ が存在して、すべての $1 \le i \le k$ について $h(x_i) = y_i$ を満たすことを示せばよい。
まず、組 $(x_1, \dots, x_k)$ に着目する。仮定 1 より $H$ は $(k-1)$ 重推移的であるため、組 $(x_1, \dots, x_{k-1})$ を組 $(a_1, \dots, a_{k-1})$ に移すような要素 $f \in H$ が存在する。すなわち、すべての $1 \le i \le k-1$ について $f(x_i) = a_i$ が成り立つ。
この $f$ によって $x_k$ が移る先を $x'_k = f(x_k)$ とおく。$f$ は全単射であり、元の組の要素は互いに異なるため、$x'_k$ は $a_1, \dots, a_{k-1}$ のいずれとも異なる。したがって $x'_k \notin A$ であり、$x'_k \in \Omega \smallsetminus A$ である。
同様に、組 $(y_1, \dots, y_k)$ についても、$H$ の $(k-1)$ 重推移性を用いる。組 $(y_1, \dots, y_{k-1})$ を組 $(a_1, \dots, a_{k-1})$ に移すような要素 $g \in H$ が存在する。すなわち、すべての $1 \le i \le k-1$ について $g(y_i) = a_i$ が成り立つ。
この $g$ によって $y_k$ が移る先を $y'_k = g(y_k)$ とおく。先ほどと同様の理由により、$y'_k \in \Omega \smallsetminus A$ である。
次に、$x'_k$ と $y'_k$ の関係について考える。仮定 2 より、$A$ を点ごとに固定する部分群 $H_A$ は補集合 $\Omega \smallsetminus A$ 上で推移的に作用する。$x'_k$ と $y'_k$ はともに $\Omega \smallsetminus A$ の要素であるため、$x'_k$ を $y'_k$ に移すような要素 $s \in H_A$ が存在する。すなわち、$s(x'_k) = y'_k$ を満たし、かつすべての $1 \le i \le k-1$ について $s(a_i) = a_i$ を満たす。
以上の $f, g, s \in H$ を組み合わせて、目的の置換 $h \in H$ を次のように構成する。
$$h = g^{-1} \circ s \circ f$$
この $h$ が、すべての $1 \le i \le k$ について $h(x_i) = y_i$ を満たすことを確認する。
$1 \le i \le k-1$ の場合:
$$h(x_i) = g^{-1}(s(f(x_i))) = g^{-1}(s(a_i)) = g^{-1}(a_i) = y_i$$
$i = k$ の場合:
$$h(x_k) = g^{-1}(s(f(x_k))) = g^{-1}(s(x'_k)) = g^{-1}(y'_k) = y_k$$
以上により、任意の組 $(x_1, \dots, x_k)$ を $(y_1, \dots, y_k)$ に移す $h \in H$ を見つけることができた。したがって、$H$ は $k$ 重推移的である。$\blacksquare$